仕事先とか、クラス会とか、スクールなどで、「お仕事は何しているの?」と、自分が気づくと聞いているのを、なんでなんだろうと思っていた。
仕事とは専業主婦や育児や社会活動のことで、それは確かにその人を知る上で興味はあるけれど、私は人を職業でみることはないし、自分がまずそこを尋ねる理由が、わからないでいたのだ。
でも、あるとき気付いた。私は仕事の種類ではなくて、その人の「仕事の中の思い出」を聞いてみたいのだと。
何年か前、地方都市で新しい形態のクリーニング屋さんを営んでいる人に会ったことがあった。
クリーニング屋さんと話したことなんてなかったし、この業界は意外と朝が早いんですよーとか、しみぬきは専用の職人がいるんだよとか、そんな業界の話も、多分くいいるように聞いたはと思う。
でもそれは、一度聞いたら気が済むじゃ、ないけれど、それだけなら「今日はクリーニング屋さんという職業ついて少し知ったな、あー面白かった」で、終わったと思う。
だけどその人は続けて、
「親父の会社だから知らなかったけど、ある日帳簿をみたら大赤字で、なんでなのかなって工場を歩きまわって、従業員の人たちとしゃべってみたんです」
「そうしたら、頼まれてもいないのにボタンつけをしたり、毛玉とりをしてあげたりしていた。そういえば僕が子供の頃からみんながそうしてたことを思い出した。このサービスをきちんと伝えようと思ったんです」
と、いった。
時間にして1分程度、短いエピソードだったけれど、その人が工場の中を歩き回って立ち話をする風景が浮かんだ。
その人の「仕事の中の思い出」に触れた気がした。
すると、さっきまでそうは思っていなかったんだけれど、俄然そのクリーニング屋さんに、洋服をだしてみたくなってしまった。
多分、その人のことが人として少し、信じられる感じがしたんだと思う。
よく「好きなことを仕事にしよう!」と言うけれど、私は仕事が楽しいかどうかは、人生とは関係ないと思っている。
それよりも、その場面で、その人が何をしたのか?
そんな、無意識でしたこと、みたいなところが、その人そのものになり、人生を作っていると思う。
よく、1分で自己紹介しましょうってあれ(自分はこんなことやってますみたいなやつ)は、私は何も得られるものがなくて、自分もまったく伝えきれなくて、苦手です。
それよりも、1対1で、「仕事の中の思い出」を聞きたい。
すると、その人の深いところまで降りていって話しているような気持ちになれるときがある。その人はそこで、私が到底、知り得ないような体験をしていたり、思いをしていたりする。
そんなとき、相手をとても信じられるのだ。